症例紹介

Case75 腰窩リンパ節転移が認められた肛門嚢アポクリン腺癌の1犬の例

ホームドクターで肛門嚢腺癌と診断され手術を勧められたとの事でセカンドオピニオンのために退院した12歳8ヶ月齢のオスのゴールデンレトリバーくんです。

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肛門右側2時から6時方向に8.5×6.2cm大の硬固なマスを触知しました。

皮膚固着は認められませんが底部固着があり可動性は乏しい状態です。

針吸引生検を行ったところ、左のような上皮細胞集塊が採取され肛門嚢アポクリン腺癌が強く疑われました。

 

 

2015.12.27 リンパ節転移の有無や全身の健康状態を確認するために血液検査、胸腹部レントゲン検査、心臓及び腹部超音波検査を実施したところ、腰窩リンパ節の腫大が確認され、リンパ節転移あり、遠隔転移なしと診断しました。

原発腫瘍が大きく底部固着があることから手術時間が長引くことが予想されたため、年齢と体力を考慮し、手術計画は2回に分け、1回目に原発病変のみを摘出し、体調が回復した後に腰窩リンパ節を摘出する事としました。

2016.1.15-1

肛門の右側皮膚を1時から6時方向に肛門に沿って切開しました。
皮膚との剥離は比較的容易に行えましたが、周囲組織との癒着が強く、腫瘍本体を露出させない様慎重に剥離しながら腫瘍を分離しました。

 

 

 

術中所見
術中所見

腫瘍腫瘍を摘出すると腫瘍が存在していた部分が会陰ヘルニアを起こしてしまう事が判明したのでヘルニア整復術も同時に行いました。

 

摘出した腫
摘出した腫

摘出した腫瘍の病理組織検査の結果、術前の針吸引検査どおり肛門嚢アポクリン腺と診断されました。

 

20106.2.1
摘出した内腸骨リンパ節および下腹リンパ節
2016.2.1-1
内腸骨リンパ節

 

初回手術から約1ヶ月後に腰窩リンパ節の郭清手術を実施しました。
腫大したリンパ節は腹部大動脈から分岐した外腸骨動脈の右側と内腸骨動脈の分岐部の背側にあり、血管及び周囲組織と慎重に分離し摘出しました。

術後は定期的に超音波検査を行いました。
初診より6か月後に再度腰窩リンパ節の腫大が確認されましたが、13歳を超え不整脈及び心機能の低下が認められたため再手術は断念し、ピロキシカム及びコルディG(冬虫夏草サプリメント)の投与し経過観察中です。

肛門嚢アポクリン腺癌は犬の肛門嚢に発生する比較的稀な悪性腫瘍で、猫では極めて稀です。かつては雌犬に多いとされていましたが、最近のデータでは性差はないと言われています。

この腫瘍は局所浸潤性が強くまた、早期に転移する傾向しあり、腰窩リンパ節群への転移が一般的で50?80%の症例で初診時に転移を認めると言われています。また原発病変が小さいにもかかわらず巨大な転移病変を形成することがあことが知られています。

症状は肛門周囲の腫大および腫大したリンパ節の圧迫による便の偏平化や排便障害の他、高カルシウム血症を随伴することがあります。

報告により差がありますが、113頭の様々さステージの異なる内容の治療を受けた犬の全体の中央生存期間は544日(18カ月)で、外科治療を受けた犬の生存中央値は平均548日で、受けてない場合と比較し、生存期間の有意な延長が認められました。

予後因子には、腫瘍サイズ、高カルシウム血症の有無、肺転移の有無、治療法などがあります。腫瘍が10cm2以上の犬の中央生存期間は8ヶ月で、10cm2未満の犬は19ヶ月であるのにに対しより有意に短く、高カルシウム血症がある犬の中央生存期間は9.6ヶ月であり、高カルシウム血症のない犬の19ヶ月より有意に短いです。

また、肺転移がある犬の中央生存期間は7ヶ月であり、肺転移のない犬の18ヶ月より有意に短いです。腸骨リンパ節の腫大の所見は予後に影響しなかったとの報告があります。

 

ありません。