症例紹介

Case55 健康診断で見つかった異常から生検に至り腸管高分化型リンパ腫と確定診断した猫の1例

健康診断のために来院した。8歳の雄の日本猫君です。昨年は別の病院で健康診断を受けたとの事でした。

健康状態は良好との事でしたが今回は当院で行っている、血液検査、レントゲン検査、腹部超音波検査がセットのなったベーシックコースを受けて頂く事になりました。

血液検査、レントゲン検査には異常ありませんでしたが、腹部超音波検査で腸間膜リンパ節の腫大が認められました。

Fig1,2の中央の黒い部分が腸間膜リンパ節です。

高分化リンパ腫1
Fig1.腹部超音波検査所見
高分化リンパ腫2
Fig2.腹部超音波検査所見

リンパ節腫大の原因は感染・炎症と腫瘍があります。現在、臨床症状は無いことから1ヶ月後に再度超音波検査をすることにしました。

再検査ではリンパ節に変化は認められないため2ヶ月後に再々検査を行ったところリンパ節の増大を認めたためリンパ腫を疑い針吸引生検を行い細胞診とクローナリティーの検査を行いました。

細胞診の結果は反応性過形成、クローナリティーを認めずこの段階ではリンパ腫の可能性は低いと考えられました。

さらにその一月後、健康診断から3ヶ月後より食欲低下と下痢、間欠的な嘔吐が認められる様になり、その都度対症療法で改善するものの再発を繰り返している事と、腹部超音波検査では依然として腸間膜リンパ節の腫大が続いているました。

これまでの経過からIBD(炎症性腸症)と高分化型リンパ腫が疑われ、その診断には腸の生検が必要な旨お話した結果、ご家族は生検による確定診断を希望されました。

高分化リンパ腫3
Fig3 手術所見
高分化リンパ腫4
Fig4 手術所見〜腫大した腸間膜リンパ節
高分化リンパ腫5
Fug5 手術所見〜腸管縫合終了

 

常法に従い胃を1箇所、腸管を4箇所くさび生検しました。

また腸管への血行を阻害しない部分の腸間膜リンパ節一つを摘出しました。

 

 

 

Fig6は小腸の病理組織写真で、上の濃い紫の部分が絨毛です。
Fig7は絨毛の部分の拡大像で小型から中型のリンパ球浸潤が認められます。

リンパ節は反応性過形成と診断され、腫瘍化したリンパ球の浸潤はありませんでした。
以上の所見より腸管リンパ腫、粘膜型、小細胞型(いわゆる高分化型)と診断されました。

高分化リンパ腫6
Fig6 病理組織所見〜弱化像
高分化リンパ腫7
Fig7 病理組織所見〜強拡像

 

 

 

 

猫のリンパ腫は近年縦隔型、多中心型が減少し、消化器型が増加傾向あると言われています。

Mooreらは消化器型リンパ腫を、粘膜型T細胞リンパ腫、経壁型T細胞リンパ腫、経壁型B細胞リンパ腫に分類し、それぞれの生存期間中央値は29ヶ月、1.5ヶ月、3.5ヶ月と予後は大きく異なると報告しています。

本症例では組織像とその後に行った免疫染色でT細胞のマーカーであるCD3が陽性でしたので、この分類に従えば粘膜型T細胞リンパ腫となり年単位の予後が期待出来ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調布市 つつじヶ丘動物病院

ありません。