5日前より突然食欲廃絶、嘔吐、どこか痛そうにヒーヒーと鳴くことがあるという事でかかりつけ医を受診した6歳の体重20kgの雄のミックス犬です。
担当の先生より、腹部圧痛と血液検査で血小板減少、黄疸(ビリルビンは1.8g/dl)、肝パネルの上昇が認められた他、BUN102g/dl、Cre2.2g/dlと腎不全を併発いているということで精査及び必要であれば外科的対応を目的にご紹介いただきました。
当院の検査でもAST,ALPの上昇及び黄疸の進行(ビリルビン3.0g/dl)と、白血球数、CRP値の上昇と血小板数の更なる減少(94000/μl)が認められたました。
腎機能検査ではBUN67.7g/dl、Cre1.1g/dlと改善が認められました。
レントゲン検査では腹部中央腹側にガス貯留と思われる陰影と腹部全体がびまん性に鮮鋭度が低下しており腹膜炎の存在が強く疑われました。
腹部の超音波検査では腹水の存在と液体貯留を伴うシストないしは腸閉塞が疑われました。
以上の検査結果から異物等による腸閉塞から腸管穿孔を起こし細菌性腹膜炎を併発した可能性が高いと考え、また血液の凝固系の検査に異常は認められませんでしたが、血小板数の低下からDICの状態に移行しつつあり、このまま内科的治療を継続しても悪化する可能性が高いと判断し飼い主様に試験開腹を提案しました。
開腹すると乳白桃黄色の腹水を認め、さらに腹腔内の探索を進めると大網に包まれるようにテニスボール大のシスト(嚢胞)が確認されました。
剥離中にシストから大量の膿様の液体が流出し、サクションで吸引しながら剥離を進めて行くと、シストは空腸が穿孔した部分に形成された巨大な膿瘍である事が判明しました。
穿孔した腸管を縫合し、腹膜炎の管理のため排液用ドレーーンを2本留置しました。
しかし術前の検査で疑った腸管内異物は確認できず穿孔の理由が不明なため。穿孔部とシストを病理組織検査に供しました。
術中に採取した腹水の培養の結果Enterococcus属の細菌が同定され、同時に行った感受性試験で有効と判定された抗生剤を投与しました。
術後3日めより食欲も出始め黄疸や減少していた血小板数も順調に回復し、10日目に無事退院となりました。
穿孔部周囲の腸管は肥厚や腫瘤形成は認められず、腫瘍の可能性は低いと予測していましたが、病理組織検査及び追加で行った免疫染色の結果c-kit陽性でGIST(消化管間質腫瘍)と診断されました。
犬の小腸の腫瘍としてリンパ腫、腺癌、平滑筋肉腫などが知られており最近の研究及び検査の進歩によりこれまで平滑筋肉腫診断されていた腫瘍の一部はGISTと診断されるようになってきました。
GISTは切除で根治する可能性も高く、転移があった場合でも長期生存が期待出来ると言われており今後定期的な検診が必要と思われます。
ありません。