前日から食欲廃絶と嘔吐があり起立状態のまま動こうとしないとの主訴で来院した13歳、体重4.1kgの雄のチワワ君です。
身体検査では腹部緊張と圧痛を認め、血液検査では肝パネルの上昇、白血球数及びCRPの高値が認められました。
レントゲン検査を実施したところ、腹部諸臓器の輪郭が不鮮明で腹膜炎を疑う所見が認められました。
腹部の超音波検査を行ったところ、胆嚢の著しい腫大(5.5×4.4cm)と内容物の流動性に乏し胆嚢粘液嚢腫に合致する所見(典型的にはキューイフルーツ様と表現されます)が認められました。
この時点で明らかな胆嚢破裂とは確定できなかったためため、入院にて静脈内輸液、抗生剤、肝庇護剤及び制吐剤等の投与を行ったところ元気、食欲が回復したため一時退院としました。
しかし第10病日にお腹が痛そうとのことで来院された際、触診で左腹部の圧痛と波動感を伴う腹部膨満を認めたため再度腹部超音波検査を実施したところ、辺縁が不正な胆嚢と腹水の貯留、左腹部に境界不明瞭なマス病変及び肝臓実質に2×2.7cmの結節性病変を認められました。
腹腔穿刺により採取された腹水は黄緑褐色の胆汁色を呈しており、胆嚢破裂による胆汁性腹膜炎と診断し緊急手術となりました。
開腹すると胆嚢内から完全に逸脱した暗緑褐色のゲル〜寒天状の胆嚢内容物が肝臓と横隔膜の間に認められました。
術後はドレーン(排液用のチューブ)を留置し、腹膜炎の管理を行い術後8日目に無事退院しました。
写真右は摘出した胆嚢で、同時に切除した肝臓の主流は結節性過形成(良性)と診断されました。
胆嚢粘液嚢腫は中年〜高齢の犬に多い疾患で、シェトランド・シープドック、ミニチュア・シュナウザー、コッカー・スパニエル、チワワ、ポメラニアンなどが好発犬種と言われています。
胆嚢の運動性低下に加え、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症及び糖尿病などの基礎疾患がある場合併発疾患として引き起こされる脂質代謝異常との間に関連性が疑われていますが現在の所、原因不明の病気です。
臨床症状は無症状から今回の症例のように急性胆汁性腹膜炎を呈するものまで様々です。
治療は臨床症状を示す犬に対しては外科的に胆嚢摘出が適応となりますが、周術期の死亡率は比較的高く10〜30%と言うデータがありますが、周術期を乗り越えた症例の予後は良好なことが多いと言われています。
無兆候性の胆嚢粘液嚢腫を内科的に管理した報告がありますが、一般的に内科療法に対する反応性は乏しいと考えられます。
調布市 つつじヶ丘動物病院
ありません。