症例紹介

Case69 腹腔内出血と血小板減少症を併発した脾臓血管肉腫の犬の1例

7歳のフラットコーテッドレトリバー君が数日前より態度が落ち着きなく、理由もなくキャンと鳴くことがあった。
今日から元気、食欲なく口の粘膜が白っぽいとのことで来院されました。

身体検査では可視粘膜は蒼白〜薄いピンク色で、腹部は軽度膨満し波動感を伴い腹腔内出血が疑われたため腹部超音波検査を行いました。

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腹腔内に多量の液体が貯留しているのが確認されました。

腹水の性状を確認するため、腹腔穿刺を行ったところ、腹水は血様でPCV30%と抹消血 とほぼ同値でした。

 

 

 

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さらに検査を進めて行くと脾臓に多数の結節性病変が確認され、脾臓の腫瘍が破裂したことによる血腹と診断しました。

血液検査では血小板数が1.6万/μl(正常値17.5〜40万/μl)と著しく減少しており、その他PT,APTTの延長、Fibの減少が認められPreDICの状態であると考えられました。
さらに翌日届いたATの値も減少していた事からからDIC(播種性血管内凝固)と診断しました。

 

多発性脾臓腫瘍の治療の第一選択は脾臓摘出となりますが、現在、血小板の消費が亢進しているDICの状態で、免疫介在性血小板減少症(IMT)の併発も否定できないため、手術可能な最低血小板数5万/μlを目標に止血剤、免疫抑制剤等の投与を行いました。

これらの治療により第7病日には血小板数4.1万/μlまで回復しましたが、第8病日には1.6万/μlに落ちてしまったため、DICの治療薬である低分子ヘパリンを投与したところ翌第9病日には小板数が9万/μl、PCVも35.5%まで回復したため手術を行いました。

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開腹すると脾臓は全体的の腫大し、術前の超音波検査所見の通り、多数の結節性病変が認められました。

 

 

 

 

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また脾臓の一部が破裂し、大網のが激しく癒着していました。

また肝臓にも転移を疑う結節性病変が多発していました。

 

 

 

 

グラフ

術後の経過は順調で血小板数、貧血の状態も左グラフの通り急速に回復しました。

病理組織検査の結果は予想どおり血管肉腫で肝臓の病変も転移である事が確認されたので飼い主様と相談の上、補助的化学療法として、3種類の抗がん剤の組み合わせのVACプロトコールを開始しましたが、食欲不振や下痢等の副作用が出たためご意向により中断となりました。

 

脾臓血管肉腫の外科手術のみでの生存中央値は19〜86日、12ヶ月生存した犬は10%未満で、外科手術とドキソルビシンの併用で治療すると生存中央値は141〜179日まで伸びる。ただし化学療法を追加しても12ヶ月生存率は10%未満(小動物臨床腫瘍学の実際4th ed.より)という現状では根治不可能な腫瘍の一つです。

 

ありません。