症例紹介

Case68 心房中隔破裂を併発した僧帽弁閉鎖不全症の犬の1例

近医からの紹介で、約半年前に僧帽弁及び三尖弁閉鎖不全症と診断した8歳の雌のチワワちゃんが、昨日から呼吸が粗くご飯を食べなくなったとのことで来院されました。

病歴と臨床症状から肺水腫が疑われたためレントゲン検査を実施したところ、肺野のデンシティー(不透過性)の亢進が認められ、他の検査結果と併せ肺水腫と診断しました。

CHEST-1
初診時胸部レントゲンDV像
CHEST2
初診時胸部レントゲンLat像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ICUで高濃度の酸素の投与を行いつつ、強心薬、血管拡張薬の持続点滴、利尿剤等の投与を行ったところ、翌日には酸素の投与は不要となり食事も間食するまで回復しました。
初診時に比べると完全ではありませんが肺の白さが改善し心臓の輪郭も明瞭になっています。

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第二病日の胸部レントゲンDV像
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第二病日の胸部レントゲンLat像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は紹介元の病院で治療を継続していましたが、時々急性の肺水腫を起こし2〜3日入院治療すると改善し自宅療養に戻る、ということを繰り返していました。

初回の肺水腫発症より約3か月後、食欲不振とお腹が張っているとのことで来院されました。
このワンちゃんは僧帽弁閉鎖不全に加え、三尖弁閉鎖不全も併発していることが分かっていたのでその悪化による右心不全を疑い、腹水の検査、胸部レントゲン検査、超音波検査などを行いました。

腹水はその性状から変性漏出液で、心不全による腹水と性状は合致します。
超音波検査では、初診時には左心室(下図LV)から左心房(下図LA)への逆流血流が観察さていましたが

Echo-1 Echo-2
Echo-3Echo-4

今回は左心房から(上図LA)から右心房から(上図RA)への乱流血流(モザイクパターン)が確認されました。
これは左心房圧の重度の上昇に伴い心房中隔が破裂し、先天性心奇形の一つである心房中隔欠損と同様の血行動態となり、腹水貯留は右心不全によるものと診断しました。

僧帽弁閉鎖不全症は中年以降の小型犬に多く見られる心臓の病気で、弁の粘液腫様変性により僧帽弁が閉まらなくなり、その30%は三尖弁も同時に冒されると言われています。

僧帽弁閉鎖不全症が進行すると左心房圧の上昇に伴い左心不全=肺水腫を起こします。
また、重度の僧帽弁閉鎖不全症では急死することもあり、最も一般的な原因は左心房破裂によるシンタポナーデです。

このワンちゃんは運良く心房中隔で破裂が起こったため急死することなく、また心房中隔に開いた穴のため、左心房圧が下がった結果肺水腫を起こすことなく、右心不全発症から2か月自宅でご家族と過ごす事がで出来ました。

調布市 つつじヶ丘動物病院

 

ありません。