症例紹介

Case54 遊離皮膚全層移植を行った前肢軟部組織肉腫の犬の1例

3ヶ月程前より前肢のしこりが急に大きくなって来たと言う事で来院した、10歳のラブラドールレトリバー君です。

STS01
Fig1. 腫瘤外観

 

写真左は初診時(手術1ヶ月半前)のもので、左前肢皮下に7.4×4.4×4.1cm大の腫瘤が認められました。

底部の固着は無く可動性がありましたが、皮膚固着が認められ、針吸引生検では間葉系悪性腫瘍の可能性が示唆されました。

 

 

手術の適否判定のため、血液検査、レントゲン検査、腹部超音波検査を行いました。
幸い遠隔転移は認められず、軽度の腎機能の低下が認められましたが麻酔は可能と判断し腫瘤の切除生検を行ったところ軟部組織肉腫と診断されました。この腫瘍は遠隔転移は稀ですが局所再発の可能性が高く、根治を目的とした場合は断脚が選択される事があります。

放置すれば腫瘍は急速増大し壊死や感染が起こり生活の質が低下する可能性があること、根治には断脚が必要で、腫瘤のみ摘出した場、局所での合再発の可能性が高い事などをお話しました。

ご家族は断脚は受け入れがたいとの事で、再発の可能性を了解の上、腫瘍のみ摘出を希望されました。

肉眼的に正常な部分で皮膚切開を行いましたが皮膚欠損部分が広範に渡ったため、単純な縫合のみでは術創の閉鎖が出来ないのでお腹からの皮膚移植を計画しました。

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Fig2. 手術所見〜皮膚切開
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Fig3 手術所見〜摘出終了

 

写真左は皮膚切開した所です。

 

写真右は腫瘤摘出終了時の所見んで、皮膚欠損は広範囲に及びました。

 

 

 

 

Fig4は足の皮膚同士の縫合で被覆出来ないと想定される大きさの皮膚をお腹から切り出している所です。

皮膚を切除した部分は単純結節縫合で一直線に閉鎖する事が出来ました。

Fig5は切除した皮膚片で、皮下脂肪を丁寧に切除する除脂術を施します。

また移植皮膚が大きく伸展させるためと移植片の下に渗出液が貯留しない様細かい切開を加えるメッシュ処理を加えました。

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Fig4. 移植皮膚片の切り出し
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Fig5. 移植皮膚片

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fig6が残された皮膚欠損部で、Fig7は欠損部に皮膚移植を終了した所です。中央の少し白く見える部分が移植片です。

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Fig6. 皮膚欠損部
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Fig7. 皮膚移植を終了したところ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第9病日移植片の一部壊死しましたが大半の部分は生着しました。

第47病日には移植片も含め良好な状態となりました。

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Fig8. 第9病日
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Fig9. 第47病日の所見
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Fig10. 摘出腫瘍

 

 

 

 

 

 

 

 

 

摘出した腫瘍は軟部組織肉腫と診断されました。

腫瘍は軟部組織肉腫は間葉系悪性腫瘍の総称で、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、神経鞘腫、悪性間葉肉腫、未分化肉腫等を含み、浸潤生に増殖しますが遠隔転移は稀と言われています。

 

今後は局所の再発が危惧されるのでインドシアニングリーンを用いた光免疫誘導治療を検討中です。

本症例ではご家族が断脚を希望されず、腫瘍摘出手術を選択しましたが、発生部位が皮膚の余裕が少ない前肢で腫瘍が大きく通常の方法では閉鎖不可能であったため遊離皮膚全層移植を行いました。

欠損部の大きさや場所によっては有茎移植(皮弁術)を選択する事もあります。

 

調布市 つつじヶ丘動物病院

ありません。