症例紹介

Case25 血栓塞栓症を併発した僧帽弁閉鎖不全症の犬の1例

2週間前から食欲低下し、数時間前から呼吸が粗くなったとの事で来院されたマルチーズ系のMix犬です。
以前より心雑音がありましたが、これまで無治療でした。

身体検査では呼吸速迫、舌はチアノーゼを呈し、胸にてを当てるとスリル(心臓の拍動に伴いザラザラした感触)が認められました。

症状から僧帽弁閉鎖不全症に伴う肺水腫が疑われたため、高濃度酸素環境にできるICUで利尿剤、ドブタミン(強心利尿薬)、ニトロプルシドナトリウム(血管拡張薬)などの点滴を行い、状態が安定してからレントゲンや超音波検査をする事にしました。

Preレントゲンs
胸部レントゲンPre
Postレントゲンs
胸部レントゲンPost

 

 

右は治療後のレントゲン写真です。
肺水腫が改善し心臓の陰影もはっきりして来ました。

心エコー検査では僧帽弁閉鎖不全による強い逆流が認められ、左心房圧の指標となるE波は173.4cm/s(正常は100cm/s以下)と極めて高い状態です。

ドップラーエコーs
四腔断面カラードップラー像
エコーE波s
心エコー E/A波
前肢s
挙上した前肢

 

 

 

 

 

 

 

 

心不全の治療は奏功し舌の色もピンクになり食欲も出てきましたが、突然右前足を挙上し不安症状を呈しました。

右前足の肉球の色は対側と比べ白っぽく冷感があります。これは血栓栓塞症(心臓や血管の中にできた小さな血の塊が血管に詰まった状態)の症状です。

 

 

飼い主さんに了解を頂き、クリアクター(血栓溶解剤)の投与を行ったところ、翌日には患肢の血行が回復し跛行は数日で消失し麻痺などの後遺症も残りませんでした。

Case4の猫ちゃんの例でもご紹介しましたが、今回使用したクリアクターは人用の薬で、第二世代のt-PA(組織プラスミノゲン・アクチベーター)製剤に分類される薬です。

第一世代に比べ血漿中からの消失半減期が20分以上と長く、単回静脈内投与で使用する血栓溶解剤です。人では急性心筋梗塞(発症後6時間以内)と急性肺塞栓症で効果が認められている薬です。

今回の症例では血栓がつまった場所が右前足の橈骨動脈で比較的末梢だった事と発症から約1時間後と早期に治療開始できた事が良い結果につながったと考えています。

高価な薬ではありますが本剤の使用を即決して下さった飼い主さんに感謝!!

 

調布市 つつじヶ丘動物病院

ありません。